遺品整理でよくある相続トラブルについて、防止対策まで解説

遺品整理と相続は深いかかわりを持っています。
深刻な相続トラブルの発生を防ぐためにどのような対策を立てるべきでしょうか。
ここでは遺品整理と相続に焦点を当てて「遺品整理で直面する8つの相続トラブル」を取り上げ
それぞれの実像と防止対策について遺品整理のプロフェッショナルが専門知識を交えて紹介しています
その話題は「形見分け」から「遺言書」「遺品の所有権」「相続放棄」まで硬軟取り混ぜて豊富に網羅しています

遺品整理で直面する8つの相続トラブル

①遺言書およびその内容についてのトラブル

遺品整理において重要視しなくてはならない物のひとつに重要書類がありますが、そのなかでも特に重要なのが遺言書です
遺言書は亡くなった人の遺志を法的拘束力のもとに書き記したものですから、相続の在り方について強い影響力を持ちます
それだけに遺言書をめぐる解釈等で相続トラブルに発展することが多いようです

【遺言書にまつわるトラブル事例にはこんなものが】

  • あるはずの遺言書が発見できず、故人から生前聞いていた遺産分配が反故になった
  • 遺言書に書き間違いがあり家庭裁判所で遺言書の内容が無効とされた
  • 故人の家から内容の違う遺言書が何通か出てきた
  • 遺言書に書かれた遺産分配に関する遺志が著しく不公平だった
  • 故人以外の誰かが遺言書を書き換え、自分の利益を図った

自宅で見つかった遺言書は家庭裁判所が検認をを行い、そこで初めて法的拘束力のある遺言書として機能するようになります。
遺言書を検認しないうちに開封してしまうと、偽造や改竄を疑われますし、家庭裁判所に過料(罰金)を命じられることもあります。ですから遺言書は家庭裁判所が検認するまで絶対に開けてはなりません。
(開封すると無効になると言及されてるサイトも見かけますが、無効になることはありませんが取扱は前述の通り慎重に行いましょう)
また遺言書のトラブルで多いケースですが遺産を分配してしまってから遺言書が見つかることがあります。
その場合、以下のケースに該当すると遺産分割協議は仕切り直しになります。

【遺産分割協議が仕切り直しになるケース】

  • 遺言書のなかで遺言執行者が指名されている
  • 特定の人物に相続することが明記されている
  • 法定相続人以外にも相続人の名前があった
  • 相続人のうち一人でも遺言書のままの遺産分割を望む者がいる
  • 相続人の廃除または排除の取り消しについて書かれている

②遺品の所有権の問題

相続におけるトラブルの原因は多くの場合「遺品をどういう割合で相続人が相続するか」という問題です。もし故人が遺言書を残していない場合は法定相続人(相続財産を受け取る権利がある者)が遺産分割協議を開いて決定します。
法律には続柄によって「誰が」「どれだけ」相続できるか決まっている法定相続分というものがあります。そのまま相続するのも一理ありますが、遺産分割協議で決めた割合を優先することも可能です。しかし法定相続人全員が合意しないと確定できないのが遺産分割協議です。そこで遺産分割協議が難しい場合の目安に「法廷相続分」が定められました。
なお、故人の遺言書があるのならば、原則としてその内容に従います。ここでも法定相続人の満場一致であれば、遺言書と違う遺産分割ができます。
また誰か一人にすべての財産を相続させるなど不公平な内容であっても、法定相続人には遺留分という権利が認められています
遺留分とは「最低限の相続財産の所有権を主張できる権利」のことです
法定相続人の地位にあるにもかかわらず、充分な遺産を受取れない場合は、遺留分を請求することができます。

遺品整理としては余談ですが、故人が遺言書に法定相続人でない第三者を記載して遺産を分配しようとする例があります
そうした場合、法定相続人だけで相続手続きを進めていると、思わぬトラブルになることもあるので要注意です
難しい話が続いたので、身近な話題を取り上げておきましょう
亡くなった人が遺した遺品の所有権は原則として相続人が継承することはもうご理解いただいたと思います
ただしそれにかかわらず起きがちなトラブルとして「形見分け」があります
すでにご存知と思いますが、形見分けは家族、親族、友人などが故人の遺した物を分け合うことです。それ自体は美しい習慣だと思いますが、単なる不用品を持ち帰るということにとどまらず
故人が財産として保有していたものまで持ち帰るようなことがあると相続トラブルの原因になります
なお価値の高い物品を譲渡された場合は相続税の対象となる可能性があるので心に留めておきましょう

③土地、不動産関連のトラブル

遺品整理と縁がないように思える土地や不動産のトラブルも実は多い
たとえば父親が亡くなって土地家屋を承継したところ、父親が先代から相続した時に相続登記をしておらず放置状態だったということがありました
土地、家屋の登記は今はデジタル化されていますが、むかしは手書きで複雑な手続きがあったので
不完全な状態で書類が受理されていることがあるようです
他にも自分が相続した家に親類縁者が住み着いてしまうようなケースもあるようです
相続に関連しますが誰もその土地、家屋を相続したがらないケースもあります
最近は古い住宅が放置される空き家問題や廃墟問題が起きています
特に過疎化した地方都市で多いようです
不動産は簡単に売買できるものではなく、移動もままならないのでトラブルが解決しにくいものです
遺品整理の観点からは、室内や敷地をきれいに保ち、不用品やゴミを処分し
売りたい時に売れるように環境を維持するという使命があるのではないでしょうか

④口約束によるトラブル

相続トラブルの実態には実にいろいろなものがあります。
原因としてよく見るのは口約束です。
兄弟姉妹が遺品整理に立ち会っている時に、「お父さんは生きている時に定期預金はおまえのものだと言っていた」と言い放って兄弟姉妹の怒りを買い、お互いの間に亀裂が深まったのを見たことがあります。
遺言書やエンディングノートがあれば信じてもらえるでしょうが、言葉の引用だけでは故人が本当に言っていたことでも周囲は信じてくれないでしょう
自分だけがおいしい思いをしようとしていると思われても仕方ありません。
ですから「言った」「言わない」の水掛け論にならないよう、口約束は避けるようにしましょう

⑤遺品の価値の評価の不一致

亡くなった人が大事にしていた物のなかには「時価」のように評価が動く物が含まれていると思います。土地や家屋などの不動産が代表的なものですが、他にも金や株式などが思い浮かびます
これらを相続した時点ではそれなりに価値が評価されていたとしても数か月後に価値が大きく下がってしまったということもあるでしょう
形見分けや遺産分割が終了してしまっている場合に「遺品の価値の評価が下がったから遺品分割をやり直してほしい」と主張する人もいます
言うまでもなくこれは無理難題なのですが、これを原因にトラブルが起きることがあります

⑥マイナスの財産が引き起こす相続放棄トラブル

相続財産というと現金、預貯金、不動産、宝石、美術品などをイメージすると思います
これらはみなプラスの財産です
しかしマイナスの財産というのもあります。
ローン、借入金、未払金などがそれにあたります。
相続人はプラスの遺産を相続すると同時にマイナスの遺産も相殺されるような形で相続します
このことをよく知らずに相続して、想定外の負債を抱えてしまうこともあるようです
そのような場合、プラスの遺産とマイナスの遺産を比べ、マイナスのほうが大きければ相続そのものを辞退することができます
これを相続放棄といいます
原則として相続放棄の手続きをすれば負債を抱えなくてすみます。
ただし相続放棄が認められない場合があります。それは遺品整理をしてしまったケースです。なぜかというと遺品整理では資産価値のある者を持ち帰ったりするのでその時点で相続したと見なされるからです。
不用品処分や手紙や写真の形見分けは例外的に認められていますが、相続放棄を考えている場合は遺品整理について慎重に判断するようにしましょう

⑦相続人の人間関係から来る感情的なトラブル

異常に仲の悪い兄弟姉妹を見ることがあります。
父親や母親が亡くなった時に相続をきっかけとした血縁者の対立が深まる様子もよく見かけます
深刻なケースでは故人に愛人がいて隠し子がいたとか、前妻との間に聞かされていない子どもがいたというような例もありました
そうなるともう話し合いの余地はなく、法定相続人による遺産分割協議も泥沼化することになります。
このように遺産の内容は二の次で相続人同士の人間関係によってトラブルが深まってしまうことがあります
そういう場合は弁護士、司法書士、コンサルタントなどの専門家に依頼するか、信頼できる親類や友人の仲介を得るしかありません

⑧遺品整理業者とのトラブル

昨今は遺品整理を業者に委託するケースが増えています
遺品整理業者と相続人の間でも相続トラブルが起きることがあります。ここでは遺品整理作業中の相続トラブルを防ぐために5つの方策をご紹介します。

(1)コミュニケーションと協力

理想的なのは相続人同士の関係がよく、コミュニケーションも風通しがよいこと。
遺品整理の計画や進行に透明感があり、全員が納得できる決定ができること

(2)法的アドバイスの受け取り

相続に関する法的な問題や手続きについて弁護士、司法書士、コンサルタントなどのアドバイスを受けることで、トラブルを防ぐことができます

(3)遺品整理の計画と実行

遺品整理業者は片付けのプロフェッショナルです
作業内容やスケジュール管理などを明確にして予期しないトラブルを防ぎます
見積書や契約書はよく読み、充分に理解しましょう。

(4)遺言書の作成と遵守

故人の遺言書がある場合とない場合があります。ある場合はその遺志を尊重します。遺言書が明確な内容であればあるほど相続人同士のトラブルを防ぐことができます。
遺品整理についても同様です

(5)感情的な問題の解決

相続や遺品整理には背景として感情的な問題が絡んでいることが多いので
相続人、家族、親族、関係者の「良い関係」を築くことが解決の道です。

まとめ

遺品整理でよくある相続トラブルを8つに集約して詳しく解説してきました
相続でもっとも重要なファクターである遺言書の取り扱いをはじめ、遺品の所有権の問題、不動産関連の問題などを取り上げました
また遺産にはプラスの財産とマイナスの財産があること、マイナスの場合は相続放棄も視野に入れることを示唆しています。

この記事の監修者

彦田純一
彦田純一株式会社ふくろう 相続手続き全般、不動産調査担当
保有資格:行政書士、宅地建物取引士、空き家相談士、 競売不動産取扱主任者
実績:遺品整理業界20年 通算1万件以上の遺品整理、特殊清掃を行う。

遺品整理ふくろうにて相続手続きや不動産の売却など担当。株式会社イマジンライフの代表取締役であり、行政書士、宅地建物取引士等、複数の資格を保有する不動産のプロフェッショナル。昨今、増え続ける遺品整理時の相続問題や空き家問題に貢献するべく遺品整理ふくろうに2021年よりジョイン。
その他、来日外国人のビザ・在留資格をサポートなど幅広い業務に従事している。

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